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2018.01.25
前回に引き続き、米大手住宅情報サイトZillowのチーフエコノミストによる2018年のアメリカの住宅市場の予測をご紹介します。
前回ご紹介した予測は、以下の通りです。
(1)2018年は比較的安い価格帯の住宅在庫不足が進み、はじめて自宅を購入する人々への影響がより深刻になる。
(2)これらのニーズを受け、高級住宅を供給していた住宅メーカーも、はじめて自宅を購入する人向けの住宅開発に動き出す。
(3)手ごろな価格帯の住宅開発が郊外を中心に進むため、ミレニアル世代は郊外へ移り住む。
【2018年の予測】
4) Many homeowners will remodel rather than sell:
●買い替えより、リフォームをする人々が増える
既に自宅を所有している人は、物件を買い替えるよりも、今の自宅をリフォームすることを選ぶのではないかと予想されています。2018年も住宅在庫が少ない状況が続くため、気に入った家を見つけて購入するということがとても難しいマーケット環境にあります。Zillowのレポートではこれを”the musical chairs phenomenon”(椅子取りゲームのような現象)と表現しています。
一般的に米国では手狭になった自宅を売却し、「買い替え特例(1031 エクスチェンジ)」という税制を活用して売却益に対する課税を繰り延べ、もっと広くて高価な家に住み替えていくのがこれまでの大きな流れですが、住宅の供給不足を受け、買い替えの代わりに既存の自宅に手を加え、快適に住めるように工夫する人々が増えるだろうと予想されています。
5) Baby Boomers and millennials will drive home design:
●ベビーブーマーと、ミレニアル世代が住宅のデザインを左右する
今後高齢化していくベビーブーマーと、これから子供が生まれるなどして家族構成が変化するミレニアル世代は住宅に対して求めるものが似ていると考えられています。
例えば、広い廊下などは、将来車いす生活をするかもしれないベビーブーマーと、赤ちゃんのための乳母車を利用するかもしれないミレニアル世代両方に共有したニーズです。また、部屋と部屋の間の壁を取り外すことができるなど、間取りをフレキシブルに変更できるような機能的な設計も、両世代に受け入れられるでしょう。2018年以降はこのような世代間に共通のニーズが、住宅のデザインに反映されていくと予想されています。
6) Homes prices will continue to grow, but at a slower pace:
●住宅価格は値上がりするが、ゆるやかな上昇である
Zillowの 住宅価格予想調査(Home Price Expectations survey)によると、2018年は供給不足が主な原因で住宅価格は4.1%上がると考えられています。1年で「通常」とされる伸び率の3%に比べると上昇率は高いですが、近年続いてきた6.9%前後の上昇と比較すると、ゆるやかになるだろうという事です。
持ち家比率は減少傾向
前回のパート1でも触れた通り、ミレニアル世代以降の多くのアメリカの学生は4万ドル以上の学資ローン(スチューデントローン)を抱えて卒業します。米連邦準備理事会(FRB)の利上げが進む中、このローン返済によりアメリカ全体の景気が低迷するのではないかと懸念する声が上がっています。
このような背景から、20~30代の学資ローン保有者が住宅を購入しやすいよう、州や民間企業による対策がスタートしています。住宅を購入する際にネックになる頭金の捻出という課題を解決すべく生まれたのが、Loftiumです。Loftiumは「金融×住宅」という切り口で資金調達に成功したスタートアップ企業で、Airbnbと提携しています。居住用住宅をAirbnbで12–36ヶ月貸し出す契約の締結を条件に、住宅購入の際の頭金(上限$50,000)を現金で提供するサービスを開始しました。Loftiumは頭金だけではなく、Airbnbで収益を最大化するためのサポートも提供します。学資ローンの返済が重く、住宅を購入する頭金の捻出ができない人々の住宅購入の後押しになるのではないかと期待されています。
米統計局の調べによると、2005年には69%を超えていたアメリカ全体の住宅所有率は2016年4~6月に62.9%と約50年ぶりの低水準になりました。住宅購入がこのまま減り続けると、アメリカの景気を足元から揺さぶることになります。手頃な価格帯の優良な住宅の不足と、学資ローンの毎月の返済の負担という大きな問題を抱えながら、2018年のミレニアル世代の住宅購入がどこまで進むかが注目されています。
記事提供:三宅美子(Yoshiko Miyake)