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2017.10.18
ハービーが米南部を直撃
先日アメリカの南部を襲ったハリケーン「ハービー」による経済損失がどれほどの規模になるか、まだ正確な試算は確定していません。2005年に米南東部を襲ったハリケーン「カトリーナ」の被害額は1000億ドルを超えましがた、それを下回る見通しと言われています。歴史的にも沿岸の都市は栄える傾向にありますが、自然災害には脆弱であるという特徴があります。今回の大型ハリケーンで甚大な被害を受けたテキサス沿岸都市のヒューストンでは「洪水保険」の未加入問題がクローズアップされています。
「洪水保険」未加入者は被災者の半分以上
2017年9月4日のThe Wall Street Journalによると、連邦政府が運営する全米洪水保険制度(NFIP)が過去数年にわたり洪水保険を格安の価格で提供し、洪水が発生しやすい沿岸の地域の開発を促してきた経緯が改めて取り上げられ、批判を受けています。洪水で生じた損害の全額は全米洪水保険制度(NFIP)が提供する保険で補償されないのが通常で、保険加入者であっても一定の自己負担を求められます。
ただし、それ以前の問題で、ヒューストンには洪水保険に一切加入していない人がかなりいるというデータがあります。ハービーによる洪水で被害を受けた物件のうち、100年洪水確率地域内に建設されている物件は洪水保険の未加入率が非常に高いことが分かっています。一方、それ以外の地域では、おそらく半数以上にも上る50%~80%は無保険ではないかと言われます。物件が立っているエリアがが「100年洪水確率地域(1年間の洪水発生確率が1%の地域)」に指定されていない場合、洪水保険の加入が必須ではありません。保険未加入物件がこれだけ多いことが、ヒューストンの復興に影響しそうです。
先進国と比較しても洪水保険未加入率が高いアメリカ
経済協力開発機構(OECD)によると、米国民の洪水保険加入率はわずか10%程度にすぎず、先進国の中では最低クラスに入ります。洪水の年間リスクを1%で区分することで、100年洪水確率地域のすぐ外に住む人々に誤った安心感を与えてしまっていると指摘する専門家もいます。域外の人々は大きな洪水リスクに直面しながら、それを知らずに何ら対策をしていない可能性があります。
民間の保険会社も提供をためらう洪水保険
民間保険会社が、洪水保険商品を市場に十分提供できていないというのも事実です。ハリケーンによる大規模な洪水被害が発生した場合、同じエリアで一斉に保険金の支払いをしなければならず、支払い余力を確保できない恐れがあります。現在、この分野では1968年に創設された全米洪水保険制度(NFIP)が大部分のシェアを占めていますが、2005年のカトリーナと2012年のサンディによる損害に対して多額の保険金を支払った事で、慢性的な財政難が指摘されています。
また、全米洪水保険制度(NFIP)のサービスは、現実に即していないという声もあります。民間の保険会社が洪水保険事業からほぼ撤退してしまったため、個人はもちろん中小企業の事業主もNFIPに頼らざるを得ない状況ですが、今回のハービーの対応で、NFIPの限界が浮き彫りになるだろうと考えられています。
沿岸都市の自然災害問題
世界銀行は、世界中の沿岸部の大都市に住む人々は今後も増えると予測しています。2000年に11%だった割合は、2050年に16%になるという推測もあります。特に米国の沿岸都市はハリケーンの直接的な被害を受けやすく、それらに備える必要があります。公的保険、民間保険のいずれを問わず、市民が災害に備える保険商品の拡大と、保険加入の継続的な啓蒙活動が求められています。ハービーの被災者の中には「自分を守るための保険が買いたくても売ってない。」という声も上がっており、今後の沿岸都市のための保険対策が改めて問われています。
記事提供:三宅美子(Yoshiko Miyake)