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2017.08.09
前回の記事では、外国人が記録的な勢いでアメリカの不動産を「爆買い」しているとご紹介しました。今回は、具体的にどのような理由で爆買いがされているのかをみていきます。
外国人による米国の住宅購入の国別内訳(2016年3月~2017年3月の期間)では、中国が317億ドルで首位を維持しました。次にカナダ(190億ドル)、イギリス(90億ドル)、メキシコ(80億ドル)、インド(70億ドル)と続きます。
資産分散が目的の中国人購入者
中国人の購入者がアメリカ不動産を購入する目的のひとつは資産分散です。5月24日のMARKET UPDATE「中国のミレニアル世代はスマホで海外不動産を購入」でも取り上げましたが、資産を外貨に分散することによって、人民元の下落のリスクをヘッジしたいという気持ちがあります。また彼らは自国の政治や環境問題を深刻に考えています。そのような背景から、中国の富裕層は国の外に不動産を購入しています。
自国不動産と比較をするカナダ人購入者
カナダ人の購入者の増加は、最近のカナダ不動産市場の急騰が主な原因です。自国の不動産が高すぎるために、米国で手頃な物件を探す層が増えてきています。カナダの主要都市であるバンクーバーやトロントの不動産は1年間で約30%近く値上がりしました。現在の戸建ての平均価格は1億円前後です。彼らにとって、戸建ての平均価格が30万ドル前後のフロリダやテキサスの住宅は非常に割安に感じられます。別荘としてこれらの地域の物件を購入するケースが多いようです。
今年4月、オンタリオ州政府はトロントのあまりに過熱している住宅市場を正常に戻すために介入政策を発表しました。レントコントロール地域の拡大、外国人向けに不動産購入時の税金を導入するなどして市場の抑制を図りました。その結果、トロントの住宅価格は6月に約6%下落しました。これらの一連の政策により、今後カナダ人がアメリカの住宅を購入する意欲は一時的にやや鈍化するかもしれませんが、フロリダやテキサスの不動産が彼らにとって引き続き割安である事に変わりはありません。
外国人に人気の州には偏りも
NAR(全米不動産協会)によると、外国人はアメリカ国内で高額な物件を買うケースが多いという事です。外国人が昨年から今年にかけて購入した物件の中央価格は30万ドル超で、同時期に米国内で販売された全ての中古物件の中央価格は約23万5,000ドルでした。
また、同協会の調べによると、外国人の購入物件は一部の州に大きく偏っています。フロリダ、テキサス、カリフォルニアの3州だけで外国人購入物件全体の46%を占めるという結果となりました。
住宅供給を増やすために
外国人購入者の影響もありますが、全米で住宅価格が急上昇している最大の要因は、着工件数が少なく供給不足に陥っている事です。より手頃な価格の住宅を増やして需要を吸収するには、着工件数を増やすべきであって、国内外の需要を無理に抑えるべきではないという声があがっています。
建設業界の深刻な人手不足を受け、アリゾナ州のある建設会社では、過去1年間でアリゾナ州の刑務所から出所した元受刑者を30人近く雇用しました。新築住宅のフレームを組み立てるためで、熟練工不足に対応する取り組みの一環です。失業率が低下するなか、雇用主は労働者を求めて各州の刑務所に訪問し、採用活動を繰り広げています。
外国人の購買行動により米国の不動産価格が上昇しているというのは、前回の記事で紹介したサンフランシスコなど一部都市にはあてはまるかもしれません。
一方で、アメリカのテキサス州を例に挙げると、州が主導している税制の優遇措置を受けて巨大企業が本社を他州から移転するなど、市民の雇用に直結する大きな動きがあります。複数の企業の移転に伴い、全米各地から仕事を求めて多くの人々が移り住んできています。そのため外国人購入者の存在に関係なく実需層でも住宅が不足しており、供給が追い付いていない状況です。国内の住宅需要と外国人の住宅需要を受け、アメリカの建設業界全体が今後どのように着工件数を増やし供給体制を確立していくのか、注目されています。
記事提供:三宅美子(Yoshiko Miyake)