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COLMUN
元テレビ朝日台北所長の海外放浪記 
四方見聞録
~摩天楼から一膳飯屋まで~
~世界が、人が、そして心が見える~

「台北はなんで日本人ばっかり?」中国青年が見た台北③

台湾

2019.04.25

国立故宮博物院

「台湾を訪れた観光客が必ず足を訪れる国立故宮博物院。日本人は勿論、今では大陸観光客が殺到する」

「台北はどこ見ても日本人観光客ばかりだね。どうして?」
北京の故宮では決してみられることがない超特級、国宝級の文物を見せに台湾の故宮博物院に案内すると、Mは文物よりも日本人観光客の多さに目を見張った。Mは留学前に欧米、香港、東南アジアの各地を旅したことがある。その中で台北は日本人が一番目に付くという。

2015 2016 2017
日本 1,627,229 1,895,702 1,898,854
大陸 4,184,102 3,511,734 2,732,549
港澳 1,513,597 1,614,803 1,692,063
韓国 658,757 884,397 1,054,708
米国 479,452 523,888 561,365

※中華民国交通部統計

※「港澳」は香港と澳門

台湾を訪れる日本人観光客の数は、確かに近隣諸国の中では韓国と並んで鰻上りである。
これに対して大陸は2016年1月、蔡英文の総統当選以来激減。反中傾向の強い民進党蔡英文政権を締め上げようと、政策的に訪台観光客を絞り込んでいる統一戦線工作をこの数字は物語っている。日本政府も外国人観光客誘致をアベノミクスの重要施策に掲げ、その最大の対象国は中国。しかし、中国観光客誘致は常に政治、外交関係の裏返しであることを忘れてはいけない。

訪台日本人観光客の増加は台湾当局の努力によるところも勿論否定はできないが、それよりも台湾の低廉な物価が大きくものを言っているように思えてならない。日本ではバブル崩壊後の経済を「失われた20年」としているが、その失われた時からいつ脱却できるのか見通しは全くもって暗い。

しかし、台湾の失われた年月とその悲惨さは日本の比ではない。筆者が2001年、大卒新人を採用した際、相場に少々色を付けてNT$30,000(当時のレートで10万円ちょっと)であった。それから20年近くたった今、大卒初任給はNT$30,000どころか20,000に近づかんとしているという。昨年11月の統一地方選挙台北市長選で落選した国民党候補が「台北市民の平均所得は北京に劣る」と訴えた。国民党候補は具体的なデータを示すことはなかったが、実感としては十分有権者の耳に届く訴えだった。

ハンバーガーのビッグマック、スターバックスのコーヒー(ホット・アメリカーノ・ショート)が最も身近な物価指標であろうと考え、日本、台湾、香港、大陸の値段を以下に比較してみた。

BM SB
日本 390円 290円
台湾 261 290
香港 298 441
大陸 316 399

※筆者調べ。BM=ビッグマック、SB=スターバックス・アメリカーノS

※換算レート:NT$1=3.62円、HK$1=14.21円、1人民元=16.62円(いずれも3月18日レート)

台湾の物価の安さが一目瞭然である。台湾は屋台料理が有名で、確かに美味しい。台湾を代表する庶民の味、魯肉飯は日本よりも小さめの丼一杯がNT$30前後、日本円にすれば100円ちょっと。吉野家の牛丼もデフレに次ぐデフレだが、魯肉飯の比ではない。

「日本人は一目見れば分かるよ」
Mは笑いながら日本人観光客を眺めていった。
「身なりがみずぼらしいし、表情もさえない。中年以上が多いし、ひと昔の中国観光客の様に団体行動ばっかり。一目瞭然だよ」

そういわれて日本人観光客を見れば、いちいち納得せざるを得ない。日本のバブル時代の様にブランド物で上から下まで固めた大陸観光客に比べて日本人はユニクロか無印良品ならまだ上等といった風情。台湾における日本人観光客増大を良好な日台関係などと台湾当局は必死に宣伝する。しかし、実態は共に経済低迷の中にある日本と台湾の物価が東アジアでは特段に安くなってしまい、それぞれの財布に合った旅先が台湾と日本となってしまった過酷な現実から目をそらしてはいけない。

同時に訪日観光客増をアベノミクスの成果と単純に見るのではなく、日本の物価安が世界中か観光客を集めている側面を無視しては現実を大きく見誤ることになろう。日本の二大ドヤ街、東京の山谷と大阪の釜ヶ崎は、かつての日雇い労務者用ドヤ(宿の隠語)が軒並み立て替えられ、外国人でも特に白人バックパッカーの定宿になっていることは、その証明以外の何物でもなかろう。

外国人観光客はひきつける要諦は共通の価値観などという空理空論に固められた外交関係でも、「おもてなし」などというまやかしの文化的な魅力などではない。経済的な動機が一番モノを言うのである。
日本と台湾の間の観光客往来が増加することは実に喜ばしい事ではある。しかし、その原因を外交、文化などに求めて双方が喜び合っているのは笑止千万。貧乏人同士が傷をなめ合っているようにしか見えない。

アベノミクスの提唱者である御仁は持つ母子財閥のオボッチャマ学校を小学校から大学まで貫き通した。しかし、母校の立派や校名が何に由来するのかご存じないらしい。成蹊とは司馬遷の『史記』、李将軍列伝にある「桃李不言、下自成蹊(桃李もの言わざれども、下自と蹊をなす)からとられている。桃や李は何も言わないが、その甘い香りに誘われてその木の下には人が集まり、蹊(こみち)と成る、のである。
訪日観光客増は、大本営発表の数字と分析から離れて、冷ややかに眺めた方がいい。

甘粕代三(あまかす・だいぞう)
1960年、東京は隅田川の畔で生まれる。早大第一文学部在学中に中国政府給費留学生となり大陸へ2年遊学。東京新聞記者、テレビ朝日台北・マニラ支局長、サンデープロジェクト・チーフディレクター、朝まで生テレビ・プロデューサーなどを経て売文業。アジアを中心に世界各地を流浪、日本、香港、台湾、大陸で時事、競馬評論を展開中。