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COLMUN
元テレビ朝日台北所長の海外放浪記 
四方見聞録
~摩天楼から一膳飯屋まで~
~世界が、人が、そして心が見える~

槌音きえぬ街に消えゆく日の丸 ドバイに見る一帯一路①

ドバイ

2019.05.27

ドバイの夜景

漆黒の闇の先に光彩が瞬き始めた。漆黒は夜の砂漠、そして瞬き始めた光彩はドバイの夜景を彩るネオンである。毎年恒例のバンコク発ながら今年はオマーン航空での往復となった。薄くなる一方の財布がなせる業ではあるが、往復4万円の安さに負けた。しかしながらオマーン航空はなかなか快適。オマーン空港には新装からまだ日も浅くピカピカ、喫煙室も完備されていてなかなか快適だった。ペルシア湾岸諸国はオイルマネーの威力いまも絶大、オマーン航空だけではなくエミレーツ、エティハド、カタールなどの航空会社は最新の旅客機に中東ならではの美食、イスラム教では禁忌のはずのアルコールもサービスされる。そして何よりお値頃感一杯!秋の欧州行、凱旋門賞観戦には中東トランジットでのパリ往復を検討しなくてはならない。金はない、でも時間はある人間にとってはありがたい選択肢である。

さて、サラリーマンを辞める直前の有給消化期間中にドバイを初めて訪れてから今年で10回目になる。訪問時期は毎年決まって3月最終週。察しのいい読者諸賢なら既にお見通しかもしれない。毎年3月最終土曜日に行われる競馬の祭典「ドバイ・ワールドカップ・デー」観戦のためである。直前の火曜か水曜に現地入りして、連日夜明け前から日本をはじめとする世界の強豪馬の調教を取材、日本と香港の競馬新聞に予想を出して土曜の午後から競馬観戦、というこの10年間変わることがない。ドバイでは宗教上の制限から馬券が発売されないため、香港の友人に依頼して馬券を買って貰うのも十年一日の如し、である。
そして変わることがないのは年に一度しか訪れないドバイの街には相も変わらず槌音が響いていることである。第2の住まいともなっている香港は1984年に初めて訪れたが、訪れる度に槌音に迎えられる。槌音が歓迎してくれるのは世界広しといえどもドバイと香港しか知らない。その槌音はドバイと香港の成長力、経済力を歌い上げている。そして訪問の旅に街並みは一新されていく。

ドバイ・レーシング・クラブ差し回しのランド・ローバーでホテルに向かう。プレス・ホテルが昨年までのリッツ・カールトンからヒルトンに直前になって変更され、ドライバーも不案内だったのか、道を間違え行き止まってしまった。日もとっぷりとくれた後だったので人影は見えないが、ドライバーが門番に道を訊いているのを横目に、工事現場の先を眺めると看板に記されていたのは何と、何と「中国建築」という中国国営企業名!そして証明に照らされた起重機には「三菱重工」ではなく「三一重工」の4文字!東日本大震災の際に中国が送ってきた重機は三一重工製、その重機がドバイにも聳え立っている。

ドバイを初めて訪れた2010年、ドバイの工事現場にはKOMATSUなど日本の工作機械メーカーのロゴをそこかしこで目にすることができた。ドバイ自慢のメトロは2000年に開通しているが、これは日本御の技術協力で完成したものだ。しかし、今年のドバイでは日本の存在感が圧倒的に弱くなっている。日本に代わって存在感を高めているのは、この工事現場もそうだが、言うまでもなく中国である。
習近平中国の最重要政策、一帯一路はアジアとヨーロッパの経済をつなぐ壮大なプロジェクトである。途上国に莫大な借款を与えて借金まみれにして支配力を強める、と一帯一路には西側から非難の声も上がっているが、ドバイは決して途上国とは言えない。ラオス、カンボジア、スリランカなどの途上国とは全く状況の違うドバイにも一帯一路、現代の海のシルクロードが触手を伸ばすのには一体どんな意図があるのだろうか?

その工事現場の看板を一瞥すると、事務所用テナント、高級住宅にホテルという複合施設である。施主は中国系企業と地元ドバイの2社。完成後、このオフィス、住宅は一体いくらで賃貸されるのだろうか?

日本からドバイに遠征し、世界中の注目を集める日本最強馬、アーモンドアイと馬友の大魔神こと佐々木主浩の愛馬、ヴィブロスとシュヴァルグランからは目が離せないが、その合間にドバイでの一帯一路をこの目で確認しなくては――翌朝は3時起き、導眠剤を飲む直前に今年のドバイでの新たな関心を心に刻んだ。(続)

甘粕代三(あまかす・だいぞう)
1960年、東京は隅田川の畔で生まれる。早大第一文学部在学中に中国政府給費留学生となり大陸へ2年遊学。東京新聞記者、テレビ朝日台北・マニラ支局長、サンデープロジェクト・チーフディレクター、朝まで生テレビ・プロデューサーなどを経て売文業。アジアを中心に世界各地を流浪、日本、香港、台湾、大陸で時事、競馬評論を展開中。