先日のブログでもお伝えしましたが、先週水曜日に発表されたABSD( Additional Buyer’s Stamp Duty)は、その後、連日のように新聞紙上を賑わせています
この発表翌日、不動産株は軒並み急落、CDLなどの高級物件を扱うデベロッパーなどは、一時13%の下落を記録しました。
本日のThe Business Times のTop Staries の3面では、今週末の高額物件を扱うデベロッパーの販売センターには早速反応が出ており、来客数は激減しているが、すでに購入予約をしている顧客には、キャンセルは一切出ていないという報道もあり、ある程度冷静に判断しているようです。
そんな中、高級物件をあつかう大手三社 Far East Organization, Wing Tai, CDL 各社は購入者を呼込む為の負担軽減パッケージを提供する計画があることを報じています。Far East Organizationは、購入者を呼込むために、物件価格の5%相当分の負担軽減パッケージを提供することを発表しました。(3%は返金。2%相当分の家具バウチャー)他の2社も物件を選択して、実施する見込みであると報じています。
また、ブティク開発業者であるOxley Holdings社は、ABSDを避ける投資家の為に、今後6ヶ月以内に商業またはSOHOの小型の区分所有物件を市場に提供して行くことを検討していると発表しています。
日本では、住宅以外ではあまり区分所有物件は流動性がありませんが、香港、シンガポール、上海など海外では投資商品として十分流動性を持っていますので、今後このような新規の商品や中古物件が市場で注目を集める可能性があります。
さて、この世界中で景気後退、雇用不安が懸念されるこのタイミングで外国人向けにこのような政策を打つことの意義は何なのでしょうか?
このタイミングで政府がこの政策を仕掛けたのは、やはり世界経済の不透明感の中、シンガポールに資金が流れ込んでおり、その金が特に投機的に高級住宅に流れ込むことを事前に防止することを狙ったものと見られています。
そもそも小さなマーケットであるシンガポールの高級不動産市場(総戸数のの15−17%程度しか占めない)に世界中からリスク回避マネーが入れば、物件価格のボラティリティーが大きくなることを恐れ、中長期的な視野に立った施策であるという見方です。
香港は今年も昨年に続き全世界で価格上昇率トップとなりました。(英コンサルタントのナイトフランク調査)が、ある意味、香港との差別化を狙っているとも言えるかもしれません。
ところが、国内には、どちらかというと批判的な声が多いようです。
まず主流なのは、富裕層と優秀な人材を呼込んできたことによりシンガポールの発展があったはずなのに、このような保護主義でかつ差別的な政策をとることはシンガポールの存続意義が問われるという中長期的な視点での批判です。
また、来年はGDP成長率が3%に落ち込むと予想されている中、主要産業の一つでもある不動産業に打撃を与えることは、国内経済に深刻な影響を与えるという短期的な視点での批判もあります。
とにかく、2015年にかけて、全般的に住宅の供給戸数も増加見込みであることから、市場には短期的にはしばらく価格が高騰する見込みがなかったところに、なぜ今このタイミングなのかという疑問が主流です。
個人的には、シンガポールの不動産は、リスク回避資産として、中長期では非常に有望であると考えていますので、確かに価格の10%の印紙税は大きな負担ですが、このご時世では、それでもシンガポールの不動産の購入意欲をもつ海外富裕層はいるのではないかと考えます。子弟の留学も目的や、資産管理会社を設立して運用するニーズなど、この程度の税金で富裕層のニーズに大きな変化があるとは思えません。
中国のように、人民元の為替操作により自ら生み出した過剰流動性により、不動産バブルを引き起こしたのに、海外からのホットマネーが原因だとして、2006年にいきなり外国人の不動産投資を禁じた(1年以上居住した人の自己使用目的の取得は認めた)のと比べると全面的に取得を禁じている訳ではないのです。
確かに価格の10%という印紙税は重い課税ですが、短期の投機目的でなく、長期投資で入ってきてくださいという意味ですから、それだけ自国の不動産の魅力を理解していて安売りをしない余裕の姿勢とも言えます。
さて、この政策の影響が今後の短期的なマネーの流れにどう影響を与えるか、投資家の立場としては、気になるところです。
むしろ長期的な視野で見れば、これからはシンガポールの住宅は仕込みのチャンスではないか?
それともABSDの適用外である住宅以外の他用途(オフィス、リテール、インダストリアル)の物件に向かうのか?
それとも他の海外不動産に向かうのか?
本日から日本からシンガポールの住宅を購入を目的に視察に来る投資家がいます。目的は当面は資産運用ですが、将来は自己使用です。
まさに先週のこの発表は寝耳に水でした。
この投資家がこのタイミングでどういう判断を下すのか、楽しみです。日本人にとっては、この円高を考えれば10%程度の負担増も長期投資で吸収可能だと考えても不思議ではないのです。むしろ、今まで強気だった売り手に対して価格や条件交渉ができるタイミングあることを考えると狙い目だと判断するかもしれません。
引き続きシンガポールのマーケットは注目です。