前回は、今年の香港不動産マーケットについてコメントしました。今回は、香港と常に比較される対象であるアジアの金融都市シンガポールのマーケットと、そのマネーの動向を見てみたいと思います。
1月9日のシンガポールの経済紙Business Timesによると、昨年のシンガポールは、海外からの機関投資家の大規模ディールが一昨年より30%増える一方、国内のリテール取引は、前年にくらべ3%程度減った程度だったようです。
大型ディールを牽引しているのはアジア資本であり、その中でも中国本土マネーの存在感が圧倒的です。オーチャードの一等地のGrand Park Orchard(ホテルと高級ショッピングモール)を中国資本のファミリー企業が12億シンガポールドル(960億円)で買収したり、郊外の住宅開発にも中国系資本が名乗りを上げています。
また、中国に次いで、日本の投資も存在感を示しています。既に三井不動産や三菱地所、セキスイハウスが現地パートナーと合弁でオフィスや住宅開発を進めていますが、昨年末に、マーケットを驚かせたのは、Daisho Group( 大東建託の創業オーナーの多田氏の個人資産会社)が、シンガポールのWestin Hotel(昨年末に開業したばかりで、売り主はアメリカの世界最大の運用会社Black Rock のファンド)をS$468Mil(375億円)で買収したことです。Daisho Groupは、日本国内の商業施設投資だけでなく、海外のホテル(オーストラリアのグランドハイアットシドニーやマレーシアクアラルンプールのヒルトンホテル)なども投資している企業ですが、久々に日本企業の大型投資が発表され、地元では話題になっています。
昨年の香港と比べると、シンガポールは比較的堅調なマーケットだったといえるでしょう。
シンガポールは、香港同様、リーマンショック直後は価格調整があったものの、2011年のGDP成長率が15.4%を記録するなどカジノやテーマパークの開業なども相次ぎ、観光収入などが景気をささえていることから、堅調な経済成長が続いています。また、プライベートバンキングビジネスが成長しており、世界中の資産家の資金が流入していることから、不動産価格は上昇傾向が続いてきました。私のブログでも何度もご説明してきましたが、シンガポール政府は不動産マーケットの加熱を心配し、投機抑制策を矢継ぎ早に講じてきました。昨年始めには、住宅に関しては、外国人購入者に限っていた追加印紙税(ABSD)を2件目から購入するシンガポール人にも適用したことにより、国内の住宅投資に関しては大きな影響を与えました。ABSDがかからないオフィス、ホテルや店舗、ロジスティッック物件等に投資がシフトしており、住宅に関しては、過剰供給の心配もあり、しばらく軟調な展開が予想されています。
同時に、シンガポール人は国内から、海外不動産マーケットに資金をシフトさせています。もともと、国内のマーケットが小さいこともあり、彼らの多くは、オーアストラリアやマレーシアにセカンドハウス投資をしてきていますが、ここ数年は英国(ロンドン)やニュージーランド、タイなどにも資金を分散しています。特にここ2−3年は、ロンドンとマレーシアのジョホールバル(イスカンダル)への投資が急増していました。ロンドンは、もと宗主国であり、自らも留学帰りであったり、将来的に子弟を留学させる目的もあり、身近な存在でもあることと、ポンド安から価格的に魅力が出たことが理由です。ジョホールバルは、シンガポールに国境を隔てて隣接していますが、シンガポールと比べ価格が6分の1と安く手頃な資金で投資が可能であることから、プレビルドの住宅物件の値上がりを狙って、シンガポールの投機マネーが殺到しました。
また、昨年からシンガポールの投資家は日本(東京)の不動産も買い始めました。
当社も昨年11月に都内(港区と新宿区)のマンション販売会を、地元の不動産エージェントと共同で、シンガポールで行いましたが、確かに、円安とアベノミクス、東京オリンピックにより、東京の不動産は今は買いだという意見も聞かれる中、強くなる通貨であるシンガポールドルをもつシンガポール人にとっては、シンガポールドルに対する円の今後の動向も相当気になっているようでした。彼らの考えは、おそらく東京の不動産は5年で50%位はあがってもおかしくないが、今後為替で30%位はやられる(対シンガポールドルに対して30%程度の円安)覚悟が必要というものです。
シンガポールでは、ようやく地元銀行が、東京都心5区に限りLTV50%のローンを付けはじめましたが、まだまだキャッシュで購入するケースが多く、為替リスクを覚悟してまだ慎重ですが、邦銀などが、日本国内で、シンガポール人に円ローンを出しはじめると本格的に買いがはいると思います。